May 21st, 2021
道端に咲くオレンジ色の花の正体
春の終わりに道端などでよく見かける小さなオレンジ色の花は“ナガミヒナゲシ”というケシ科の植物です。英語では“long-headed poppy”と呼ばれます。
ナガミヒナゲシはもともとヨーロッパの地中海沿岸が原産の植物ですが、現在は南北アメリカやオセアニア、日本を含むアジアなど世界各地に自生地を広げています。日本には輸入穀物などに紛れて渡来したとみられ、1961年に東京都世田谷区で初めて確認されました。以降徐々に各地に分布が広がり、2007年までに青森県と沖縄県を除く全国で繁殖が確認されています。ナガミヒナゲシの種は非常に小さく、車のタイヤ等に付着して繁殖地を広げているとみられ、よく道路わきに生えているのが見かけられます。
どこにでも咲くナガミヒナゲシ
ナガミヒナゲシは最大で60cm程度になる長い茎の先にヒナゲシよりもやや淡い色の鮮やかなオレンジ色の花を4月から5月ごろに開花させます。花が散ると数センチ大のやや細長い果実をつけまし。果実が熟して乾くと割れて隙間ができ、風に揺れることで種を地面に落とします。
ナガミヒナゲシは繁殖力が強く、果実は0.7mm程度の非常に小さな種を1000粒から2000粒含み、1株から10万粒以上の種が生産されます。7℃から25℃と広い範囲の温度で発芽することができ、種は秋ごろに発芽して越冬するか、翌年の春になって発芽します。種は休眠して数年たってから発芽することもあり、また、後熟によって未熟な果実に含まれる種も発芽します。
ナガミヒナゲシは日当たりの良い乾いた土を好みますが、ほとんど場所を選ばず荒れ地や道路の割れ目などでも容易に生長することができます。
ナガミヒナゲシは栽培しても良い？
“ケシ”というと栽培が違法な植物のイメージがあります。しかし、ナガミヒナゲシが分類されているケシ科ケシ属ではアヘンの原料となるケシなど多くの品種があへん法で無許可での栽培が禁止されていますが、ナガミヒナゲシやヒナゲシの仲間は麻薬成分を含んでいないので栽培は禁止されていません。なので、ナガミヒナゲシが庭に生えていたからといって警察が来ることはありません。
なお、ほとんどの場合ヒナゲシを指すのに使われる“ポピー”はもともとケシ科の花全般を指す言葉であり、栽培して良い品種も栽培してはいけない品種もどちらも含みます。日本のケシの規制は他国と比較するととても厳しく、他国で栽培が認めれている品種の“ポピー”でも日本では栽培が違法となる場合もあるうえ、栽培が認められている品種と認められていない品種の見た目が非常に似ていることもあるので注意が必要です。
また、繁殖力の非常に強い外来種であるナガミヒナゲシですが、特定外来生物や生態系被害防止外来種には指定されていないので外来生物法による規制もありません。
とはいえ、繁殖力が強く、容易に拡散するナガミヒナゲシを庭などに植えると収拾がつかなくなる可能性もあるため、栽培することはあまりおすすめできません。
ナガミヒナゲシには毒がある？
ナガミヒナゲシには麻薬成分は含まれないものの、ケシ科特有のアルカロイドが含まれており、食用にはしない方が良いとされています。ナガミヒナゲシの茎や葉を切ったときに出てくる乳白色の乳液が皮膚に触れるとかぶれなどの炎症を起こす可能性があるので、花を摘んだり、庭から駆除したりする場合には手袋をつけた方が良いでしょう。
また、ナガミヒナゲシは他の植物の生育を阻害するアレロパシー効果のある物質を根や葉から生み出すことで知られます。しかし、これは他の植物を完全に駆逐するような強い現象ではなく、他の植物の生育を少し阻害する程度のものとみられます。実際にナガミヒナゲシが生えているところを見ても、周りに他の雑草が生えているのを見ることができます。
ナガミヒナゲシが他の植物に与える影響としてはアレロパシーよりも、繁殖力の強いナガミヒナゲシが他の植物に当たる日光を遮断することによる影響の方が大きいと言えます。
