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遠く離れた場所との通信に活躍した伝書鳩のあれこれ

記事Oct.20th, 2021
遠く離れた場所から手紙や小包を運んだ通信用の鳩、伝書鳩について。

伝書鳩とは?

通信に使用される鳩、伝書鳩

伝書鳩は鳩が遠く離れた場所から巣に戻ることができる帰巣本能を持つことを利用して手紙などを運ばせる通信方法のことです。これに利用される鳩自体も伝書鳩と呼ばれます。鳩の脚に手紙などを入れた小さな筒を付けたり、背中に小さな荷物を背負わせることでこれらを鳩に運ばせました。

鳩がどのようにして巣に帰るのかは諸説ありますが、体内時計と太陽コンパスを利用したり、地磁気を感知したり、もしくは地形を記憶したりすることで方向や位置を割り出すことができるとされ、1000km以上離れた場所からでも巣に戻ることができると言われています。しかし、猛禽類などに襲われたり、鳩が迷ったりすることで途中で行方不明になることもあるため、主に数100km程度の距離で用いられました。

帰巣本能を使用した伝書鳩は放った鳩が巣に戻るだけなので一つの通信先に宛てた一方向の通信にしか使用できません。つまり、伝書鳩によって通信するためにはあらかじめ鳩が飼育されている鳩舎から通信を発する場所に鳩を運んでおかなければならず、通信先が複数ある場合や、往復で通信したい場合にも通信先の数だけ鳩を用意する必要があります。繰り返し通信する場合にも、鳩舎へ向けて飛んで行った鳩は戻ってこないので通信する回数分鳩を用意したり、鳩を鳩舎から再び運んでくる必要があります。

ただし、巣とエサ場を分ける特殊な方法で訓練されて往復通信に利用できるようにした「往復鳩」と呼ばれる伝書鳩もいます。また、通常の伝書鳩は移動する場所を通信先とすることはできませんが、戦時中の日本軍は「移動鳩」と呼ばれる移動式の鳩舎へ帰巣することができる鳩を使用していた記録が残されています。しかし、「移動鳩」の訓練方法は現在では失われてしまっています。

伝書鳩の歴史

伝書鳩の利用は紀元前約3000年ごろにはすでに行われていたとみられ、古代エジプトや古代ギリシャで伝書鳩による通信が行われていました。ローマ帝国の時代になると伝書鳩は各地で使われるようになりました。日本でいつ伝書鳩が使用されるようになったかにははっきりとはわかっていませんが、江戸時代後期の1780年代には大津の米商が大坂の米価の情報を通信するために伝書鳩を使っていたとみられています。

ローマ帝国の時代から伝書鳩は軍事通信にも使われるようになりました。軍事用の伝書鳩である軍鳩は電気通信のなかった時代から使用され、無線通信が使用されるようになった第二次世界大戦でも広く使用されました。中でもイギリス軍は第二次世界大戦では25万羽もの軍鳩を使用していたと言います。日本では明治時代から大正時代にかけて軍鳩の輸入と研究が進みました。軍鳩は敵に包囲された軍が外部と通信するためにも使用され、これを妨害するために敵はタカを飛ばすこともありました。

伝書鳩は軍事目的以外では新聞社によって多用され、新聞各社の屋上には鳩舎が設けられ、記者は取材に伝書鳩を持っていきました。原稿だけでなく写真のフィルムを運ぶことができた報道用の伝書鳩は電気通信が普及しても1960年代の中ごろまで活躍しました。

通信技術や交通が発達した現代では伝書鳩が通信目的で使用されることは稀になりましたが、スポーツとして開催される鳩レースに参加するためのレース鳩の飼育は今でも愛好家によって行われています。

伝書鳩のあれこれ

迷い鳩は宅配便で送れる

過去の伝書鳩と同様に、現代でも鳩レースの鳩が帰巣できずに迷い鳩になってしまうことは珍しくありません。迷い鳩が飼育されている鳩舎から遠く離れた場所で保護されることもありますが、この時に利用できる迷い鳩輸送システムというものがあり、迷い鳩を専用箱に入れてゆうパックで飼い主に送ることができます。

ただし、これは鳩レースの団体の協会員だけが利用できるもので、一般人が郵便局に鳩を持ち込んで利用できるものではないので、迷い鳩を保護した場合には迷い鳩が所属している団体か飼い主に連絡して引き取りに来てもらう必要があります。

鳩レースの団体は日本伝書鳩協会と日本鳩レース協会の2種類があり、鳩がどちらに所属しているかは脚環によって知ることができます。「NIPPON」の文字が入った脚環が付けられた鳩は日本伝書鳩協会、「JPN」の文字が入った脚環が付けられた鳩は日本鳩レース協会に所属しています。飼い主の連絡先が書かれた個人脚環も付けている場合もあります。

なお、日本郵便のウェブサイトにある「ゆうパックに関するQ&A」の「生きた動物をゆうパックで送れますか?」では条件を満たしていればゆうパックで送ることができる生き物の例の中に鳩も含まれており、一般人でも鳩をゆうパックで送れないわけではありません。通常のゆうパックでは鳩を含む小型の鳥類合は近距離の場合のみ送ることができます。

インターネットよりも速い伝書鳩

2009年、南アフリカのダーバンにあるIT企業がADSL回線のインターネットの通信速度の遅さに不満を持ち、伝書鳩に4GBのメモリスティックを付けて飛ばしました。

すると鳩は80km先の場所に1時間8分で到達することができ、メモリスティックからデータを取り出すのにかかった時間を含めても約2時間しかかかりませんでした。しかし、その間にインターネットではデータの4%しか転送できなかったと言います。

この競争の様子はFacebookやTwitterでも実況され、多くの人々が見届けました。

鳩によるインターネット通信はたびたびジョークとして取り上げられ、各種インターネット技術の標準化を推進する為に設立された団体である“IETF(The Internet Engineering Task Force)”も1990年のエイプリルフールに“RFC 1149 - A Standard for the Transmission of IP Datagrams on Avian Carriers(鳥類キャリアによるIPデータグラムの伝送規格)”と題した規格文書を発表しています。さらに、2011年にはこの規格をIPv6に対応するために考察した“RFC 6214 - Adaptation of RFC1149 for IPv6(RFC1149のIPv6対応)”を発表しています。

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